イワクラ(磐座)学会調査報告電子版 2008年1月29日掲載
イワクラ(磐座)学会会報12号掲載                   

古代北山・太陽観測施設説の調査報告

1 はじめに
 私は、イワクラ学会会報9号(2007年3月刊)に発表した研究論文「神奈備山イワクラ群の進化論的考察」において、北山のイワクラ群について言及した。
北山は兵庫県西宮市北方にある六甲山系に属する海抜230m程度の山である。 北山の麓には、イワクラで有名な越木岩神社の「甑岩」がある。
昭和50年代、「日本のピラミッド」研究家の大槻正温(まさやす)氏は、北山の巨石群で構成された古代北山・太陽観測施設説をとなえた。これについて、『東アジアの古代文化28号』(文献@)と『ムー31号』(文献A)に関連記事が掲載されている。
しかし、2008年の時点で、太陽観測施設の基準となる巨石を特定できるものもあるがそうでないものもある。また、方位測定をどのような方法で行ったのかも不明である。
そこで本報告は、先人の研究を改めてハンディGPSを用いて調査しなおしたものである。
また、参考までに関連する巨石として「神奈備山イワクラ群の進化論的考察」にて論述した「陽石」と「甑岩」のデータも含めた。
尚、本調査は実測データを公表するもので、大槻氏の説の正否については今後の研究を待つこととした。
図1に、北山から越木岩神社に及ぶGoogle Earth衛星写真を示す。
図2は、「亀の頭」から見た北山の太陽観測施設の巨岩群である。

図1 北山・越木岩神社近傍のGoogle Earth衛星写真
陽石は太陽石から約200m南に位置する
     図2 亀の頭から見た北山の核心部 
         左端に太陽石、右に雛の冠が見える

2 北山巨石群と方位の関係


 <巨石の名称>
   イ:火の用心石  ロ:亀の頭
   ハ:ピーク     ニ:太陽石
   ホ:方位盤石   ヘ:雛の冠
 
 <日の出・日の入り線>
   1:春分・秋分の日の出
   2:夏至の日の出
   3:冬至の日の出
   4:夏至の日の入り
   5:冬至の日の入り
   6:春分・秋分の日の入り
図3 大槻氏の太陽観測施設説 北山巨石群と方位の関係(文献A参照)

3 巨石群の基礎データ

(1)巨石の呼び名

表1 巨石の呼び名
巨石名 大槻氏の呼び名 別名
太陽石 太陽石 人面岩・顔の岩
ボルダータワー(boulder tower)・ボールドヘッド(baldhead:はげ頭の人)
火の用心石 火の用心石  
ピーク 西石(いりいし)  
亀の頭 亀石・亀山  
雛(ひな)の冠  (呼び名不明)  
方位盤石 方位盤石・方位石  
陽石 コックロック(cock rock)
甑(こしき)岩 陰石

(注) ピーク、ボルダータワー、ボールドヘッド、コックロックは、
    ボルダリング(bouldering:大きな石をよじ登る岩登りの一種)により付けられた名前である。
    亀の頭、雛の冠は、岩のイメージから、より具体性を持たせたものとして今回新たに命名したものである。

(2)巨石の位置

表2 巨石の位置
巨石名 北緯 東経
太陽石  34度45分54.7秒    135度19秒20.5秒  
火の用心石  34度45分57.8秒  135度19秒18.7秒
ピーク  34度45分55.4秒  135度19秒18.3秒
亀の頭  34度45分57.2秒  135度19秒20.7秒
雛の冠  34度45分55.3秒  135度19秒19.8秒
方位盤石  34度45分54.7秒  135度19秒18.9秒
陽石  34度45分48.1秒  135度19秒20.4秒
甑岩  34度45分32.6秒  135度19秒18.2秒

注1 位置の測定は、巨石の先端部(最高の標高点)に近接した衛星電波の受信状況の良好な場所にて測定した。
注2 GPS測定器:エンペックス気象計株式会社製 ポケナビmini FG-530
    精度は平均15m(衛星の状態により変化する)

(3)巨石の形状と特徴

@太陽石
この岩は、文献@の記事の中に写真があり、
調査対象との一致は明確である。
この岩は、岩登りの愛好家の間でボルダータワーと
呼ばれている有名な岩である。
また、南(写真の右側)を向いた人の顔に
見えることから人面岩とも呼ばれる。
大槻正温氏はこれを「太陽石」と呼び、
太陽観測施設の中心をなす巨石であることを主張した。
図4 太陽石 西側から撮影した太陽石


A火の用心石
この岩は、文献@Aの記事の中に写真があり、
調査対象との一致は明確である。
その写真に写っている岩の側面には、
ペンキで「火の用心」の文字が書かれている。
ここから、この岩の名前が付けられた。
図5 火の用心石 北側から撮影した火の用心石


Bピーク
この岩と調査対象との一致は必ずしも明確でない。
甲山に向う顔のような岩が頂上にある。
図6 北側から撮影したピーク


C亀の頭
この岩と調査対象との一致は必ずしも明確でない。
この岩の背後には亀の甲羅に似た平たい岩がある。
図7 亀の頭 左手に太陽石、右手に雛の冠が見える


D方位盤石
この岩は、文献@Aの記事の中に写真があり、
調査対象との一致は明確である。
なんだかお尻のようである。
図8 方位盤石 正面に30度の切れ込みがある


E雛の冠
この岩と調査対象との一致は必ずしも明確でない。
この岩は、岩登りの愛好家の間でバットマンと呼ばれている
ボルダーのすぐ上にある。
C亀の頭から見た光景が、
顔(巨岩)の上に乗っかった冠のように見える。(図2参照)
図9 雛の冠  雛の冠の先端部すぐ右手の林の中からピークの先端がのぞいている

F陽石
この岩は、岩登り愛好家の間でコックロック(cock rock)と
呼ばれている有名な岩である。
古事記に曰く、『我が身は成り成りて、成り余れるところ一処あり』
リンガ信仰は太古から世界各地にあり、悪霊を払い五穀豊穣と
子孫の繁栄を祈る最も素朴な信仰である。
図10 陽石 太陽石から203m南にある


G甑岩
甑岩は越木岩神社のイワクラで、その大きさは高さ10m・周囲約40mである。
摂津名所図会に「甑岩神祠(やしろ)は越木岩村にあり祭神巨岩にして
倚疊(きちょう)甑の如し、此地の生土神(うぶすながみ)とす」とある。
酒米を蒸す時に使う「甑」という道具に似ていることから
「甑岩」と名づけられている。
また、巨岩の形状が女性自身に似ていることから、
女性を守る神として子授かり・安産のご利益があるとされている。
前掲の陽石と対比して見ればおもしろい。
図11 越木岩神社の境内にある甑岩 太陽石から680m南にある

4 古代北山・太陽観測施設説の調査結果

表3 太陽石を基準とした各巨石の位置
巨石名 緯度・距離のズレ 経度・距離のズレ
  距離m   距離m 
火の用心石 +3.1 +95.4 −1.8 −45.7
ピーク +0.7 +21.5 −2.2 −55.8
亀の頭 +2.5 +76.9 +0.2 +5.1
雛の冠 +0.6 +18.5 −0.7 −17.8
方位盤石 ±0 ±0 −1.6 −40.6
陽石 −6.6 −203 −0.1 −2.5
甑岩 −22.1 −680 −2.3 −58.4

注 緯度経度から距離の換算は、国土地理院の2万5千分の1の地図より、
    北緯30.76m/秒  東経25.38m/秒を実測して適用した。

 
 奥津磐座:太陽石
中津磐座:陽石
    辺津磐座:甑岩(陰石)
 図12 太陽観測施設説 北山巨石群と方位の測定結果 図13 太陽石・陽石・甑岩の測定結果(参考)

5 まとめ
 @太陽石と方位盤石は、水平の位置にあり、春分・秋分の日の出線を忠実に反映している。
 A太陽石とピークおよび亀の頭と火の用心石は、冬至の日の出線に対して約10°のズレがある。
 B方位盤石と雛の冠およびピークと亀の頭は夏至の日の出線に対して約10°のズレがある。
 
  以上のことから、ハンディGPS用いた測定結果からは、冬至の日の出線と夏至の日の出線はかなりのズレがあると判定される。但し、ハンディGPSの誤差が明確でないため、この判定は確定的なものではないことをお断りしておく。
 
<今後の課題>
 ハンディGPSの誤差と測定点の誤差が考えられることから、より正確な測定として、
 基準点となる岩に測定用ポールを立てて測量器具を使って実測することが望まれる。

関連論文
神奈備山イワクラ群の進化論的考察<越木岩神社 稚日女のイワクラ>
北山と甑岩<延喜式 大国主西神社>


参考文献
 @『東アジアの古代文化28号』 p25〜37   松本翠耕著 大和書房 1981年刊
 A『ムー31号』           p264〜269 山梨賢一著 学研    1983年刊

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