南アルプス 白峰三山縦走

'04/9/25〜29

 白峰三山は南アルプスの北岳・間ノ岳・農鳥岳と連なる標高3000mの稜線である。国土地理院発行の「日本の山岳標高一覧」によれば、標高2900m以上の山は富士山の3776mを筆頭に白馬鑓ガ岳2903mまで32座ある。何故2900mにこだわるのかについては別途論ずるとして、このうち、私の未踏峰は、西農鳥岳3051mと塩見岳3047mである。32座の完登を目指す私は、塩見岳は来年に登ることとして、今年は西農鳥岳に登ることにした。今回の山行は話が急なこともあってメンバ−との調整がつかず、久しぶりの単独行となった。

9月25日(土) 晴
高速バス 大阪(あべの橋)7:25〜JR甲府(南口)15:25
その夜は、甲府駅前のビジネスホテル『末広』に宿泊。

9月26日(日) 曇後雨
山梨交通バス JR甲府(南口)4:30(日曜・祭日のみ運行)〜大樺沢出会6:32
 6:45登山開始。天気予報では9月26日〜28日は、『全国的に晴れ』とのことであったが、予報は大きくはずれた。日本列島を通過するべきはずの秋雨前線が居座り、台風21号の北上に重なって天候は悪化の傾向にあった。しかし、登山を取り止めるほどの荒れ方でもなさそうなので予定通り進むことにした。北岳を目指す多くの登山者に混じって、大樺沢を遡る。二股を過ぎたあたりからガスがひどくなり、小太郎尾根に近付く頃には小雨となった。肩ノ小屋11:20着。ずいぶん早めだが、予定通り今夜はここに泊まることにした。夕方、少しの間だけガスがはれ、写真を数枚とった。

北岳肩ノ小屋

9月27日(月) 雨
 朝から小雨が降り続いている。しかし、風がないので案外暖かい。6:25肩ノ小屋を出発し北岳を目指す。日本第二の高峰である北岳は、やはり人気の山である。こんな天気にもかかわらず人がけっこう登ってくる。北岳のピストン組がほとんどらしい。ここで、記念写真をとってもらい間ノ岳に向かう。

 北岳山荘を少し過ぎたあたりで、岩ヒバリの群れに出会った。ガスの中、人けのない稜線をただ一人ひたすらに歩いていると、自分が自分で無いような錯覚に陥る。無念無想、これが悟の境地と言うものだろうか。誰もいない雨の間ノ岳頂上に10:50、農鳥小屋12:20着。

間ノ岳山頂

 農鳥小屋の主人は一見無愛想ではあるが、根は親切な人である。泊まり客が私を含めて三人のせいもあるが、こまごまと面倒を見てくれる。お茶やコ−ヒ−等を無料でサ−ビスしてくれるし、通常1リットル100円の水もタダである。気象情報はもとより、夕焼けがきれいだと言ってわざわざ知らせに来てくれる。
農鳥小屋から見る夕焼けは、私がかって見たことがないものだった。西の中央アルプスの稜線に沸き立った巨大な雲の中で、太陽が茜色に燃える。と同時に、東からは富士山の左側高く、灰色の空に満月が忽然と姿を現す。まさに蕪村の『月は東に日は西に』を地で行く幻想的な光景であった。

中央アルプスの稜線で茜色に燃える夕日

富士山の左側高く、灰色の空に浮かぶ満月

私は、今回の山行が十分報われたことに感謝した。ピカピカ天気の山に登るのも楽しい。しかし、雨の中の一瞬の晴れ間は、鮮烈な印象を与える。それは、天候の悪さと反比例しているかのようだ。

9月28日(火) 曇後晴
ガスは濃かったが、雨はやんでいた。5:40農鳥小屋を出発、西農鳥岳6:30着。西農鳥岳は農鳥岳の属峰のように見なされているが、その標高は3051mで農鳥岳の3026mより高い。それなのに、標識も何もなく、殺風景で少しかわいそうな気がする。

西農鳥岳山頂

農鳥岳近くになって薄日がさし始めた。農鳥岳7:30、それまで太陽と雲がシ−ソ−ゲ−ムをしているように晴れたり曇ったりをくりかえしていたのが、一転して太陽が雲に打ち勝った。雲が割れ、青空が大きく広がった。それは、私の農鳥岳到着を待っていたかのようであった。紺碧の空に、ジェット機の祝福の飛行機雲が白く伸びてゆく。私は、誰もいない山頂で至福のひとときをゆったりと味わった。

農鳥岳山頂

大門沢下降点の手前で、雷鳥の親子に出会った。ひょこひょこ歩く姿は、いつ見ても愛らしい。大門沢下降点8:40。空は晴れ、広河内岳の山頂の標柱がくっきりと見える。広河内岳は、大門沢下降点から約1時間でピストンできる。山頂からは、最近脚光を浴びている白峰南嶺のなだらかな連山が見渡せた。

雷鳥

広河内岳の山頂の標柱

広河内岳の山頂から白峰南嶺を望む

9:50大門沢下降点に戻り、大門沢小屋についたのは13:10であった。 その夜の、泊まり客は私一人であった。アルファ米に鰯の缶詰一つの超簡素な夕食をすませ、早々と床についた。雨が再び小屋の屋根を叩き始めた。

9月29日(水) 雨後曇
 台風の接近で雨の降る可能性があるとあって、早立を決める。小屋の主人の話では、以前にも台風で丸木橋が流され通行不能になったと言う。5:10小雨の中、大門沢小屋をヘッドランプをつけて出発。幸い川の水量はそんなに多くはなく、難なく数ヶ所の丸木橋を渡ることができた。その内、雨もあがり、のんびりと歩く。ブナの緑が眼に優しい。鹿の鳴き声が時々聞こえる。山の稜線も素晴らしいが、下山路の緑も素晴らしい。これぞ南アルプス、しみじみとした満足感が広がってゆく。そんな時、褐色の日本カモシカに出会った。私は、歩みを止めてカモシカを見た。カモシカも、珍しいものでも見るように私をじっと見つめている。あまりにもカモシカがじっとしているので、私は写真に取ろうと考えた。どうせ、ザックからカメラを取りだしている内に逃げてしまうだろうと思いきや、カモシカはなおも私を見つめ続けていた。私は、そのままでいてくれることを願いながらシャッタ−を押した。カモシカは写真をとった後もなお私を見つめ続けていた。そして数秒後、何か納得したかのようにくるりと尻を向けて立ち去った。
 帰宅して写真をプリントしたところ、露出不足のため、暗闇にカモシカの二つの眼だけが光っていた。(下の写真)
 

中央に二つ光っているのがカモシカの目

 奈良田8:40着。
 バス 奈良田9:40〜JR身延11:20  特急ふじかわ6号 身延11:39〜静岡12:59/新幹線ひかり271号 静岡13:12〜新大阪14:59(了)

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