白馬岳・五竜岳・鹿島槍岳 縦走

2003年8月20〜24日

 日本百名山を各々単独ではなしに、いくつかの山を縦走することによって多面的な山の味わいを一層深めたい。こんな願いを持つ者にとって、白馬から五竜を経て鹿島槍に至る縦走路は『不帰(かえらず)』と『キレット』の難路を含む魅力あふれる豪快な岩陵コースである。

 21日、9時10分、雨のぱらつく中を、白馬岳に向けて猿倉を出発、白馬尻から大雪渓を登り、お花畑避難小屋を経て13時40分に村営頂上宿舎着。白馬岳(2,933m)をピストン、頂上はガスのため眺望なし。

 22日、晴、4時40分まだ夜の明けやらぬ中、五竜山荘に向け出発。5時10分日の出、三角定規の形をした白馬岳がシルエットとなって浮かび上がる。ご来光を眺めているたくさんの人影までくっきり見える。やがて剣・立山連峰が姿を現わし、私たち二人の影が黒部側のなだらかな斜面に長々と伸びる。

三角定規の形をした白馬岳のシルエット

天狗の頭付近から見た剣岳

 8時、天狗の頭、ここから天狗の大下りだ。不帰のキレットに向かって一気に300mあまり下る。そこから刀渡りの不帰T峰の稜線を越えると不帰U峰の取り付きに達する。眼前には不帰の最難所と言われるほとんど垂直に近い岩壁が立ちふさがる。しかし、手がかり、足がかりもしっかりしており、要所には鎖が取り付けられているので、時間をかけて慎重に登ればあまり問題はない。数多くの鎖場と梯子を通過して不帰U峰の北峰から南峰に達すると難所は終わる。ここで一息入れた後、ハイマツの道を歩いて唐松岳に至る。行く手には、深田久弥が『大地から生えたようにガッチリしていて、ビクとも動かない』と表現した五竜岳が聳える。唐松岳を下り、唐松岳頂上山荘、牛首山、白岳を経て五竜山荘に到着したのは15時であった。

大地から生えたようにガッチリしていて、ビクとも動かない五竜岳

23日、晴、今日の難所は、八峰キレットだ。登山支度を整えて小屋を出る。風はかなり強いが天気は良好だ。長袖に薄いジャンパーを羽織って丁度いいかげんの寒さだ。中天に月がかかり、五竜岳の巨大な影が私達にのしかかるように広がっている。その中を五竜岳の頂上を目指す登山者のヘッドランプの明かりが、ぽつぽつと見える。おそらく、五竜岳直下のちょっといやらしい岩場の手前で夜明けを迎えようという魂胆の早立ちの登山者だろう。
 4時40分に私達もその仲間となって小屋を出発する。5時40分、五竜岳頂上(2,814m)に立つ。剣岳が昨日より一段と大きく見える。今回の山旅は、常に剣と共にあり、剣に近づいてゆく旅でもある。白馬から南西方向に位置する剣は、鹿島槍で最接近し真西に位置するようになる。
 五竜岳からガレ場を急下降し、いくつかの小岩峰を縫うように進む、この途中、ザクザクの急な下りがある。これは岩場より始末が悪い。ずるっと滑べれば奈落の底だ。7時50分に北尾根の頭を経て、9時25分キレット小屋に到着する。一息入れた後、小屋を出発する。岩峰を縛り上げるように鎖、鎖、鎖の連続だ。まるで必要のないところまで鎖が張ってあるのでいささかうんざりする。小屋の前の梯子を登り最初のピークを巻くと、鉄梯子が現れて八峰キレットの入り口に達する。その梯子を下り岩場をトラバースし、次の梯子を下ると昼でも暗いキレットの最鞍部に達する。ここから黒部側を巻いて梯子を登れば八峰キレットは終わり、いよいよ鹿島槍岳への岩とハイマツの混じる急登になる。11時10分、鹿島槍の北峰と南峰(本峰)の分岐点に到着。

五竜岳から鹿島槍北峰に向かう縦走路                 鹿島槍北峰にて           

ザックを置いて北峰をピストンした後、鹿島槍本峰を目指してガレ場を急登する。ここのガレ場は神経を使う。急斜面に道がジグザグに付いているため、石を落とすと下の登山者に当たり大事故につながる可能性がある。また、鹿島槍頂上近くには、ちょっといやらしい岩場もある。
12時15分、鹿島槍頂上(2,890m)、ここで、私達の白馬〜鹿島槍の縦走は実質的に終了する。西には堂々とした軍艦のような剣岳が正面に聳え、南には布引岳・爺ケ岳・種池と続くなだらかな緑の稜線が伸びている。冷池山荘から登ってきた多くの登山者に混じって昼食をとった後、12時45分、種池山荘に向かって下山を開始。縦走のこころよい満足感をゆっくりと味わいながら下る。ハイマツの緑が目にしみる。
布引岳、冷池山荘、爺ケ岳南峰を経て種池山荘に到着したのは16時40分であった。

 24日、晴、今日は、扇沢に下るのみである。5時50分に山荘を出発し、写真を撮ったり草花を見たり、遊びながら下る。8時50分、扇沢バスセンターに下山。

<ワンポイントアドバイス>
*岩場に生えているハイマツは根が浅いものがあり、不用意に力を加えると抜ける可能性があるので注意を要する。
*天候の悪化が予想される場合、エスケープルートのないキレット小屋の宿泊は避けた方が無難である。(但し、キレット小屋が、多くの悪天による潜在的な遭難者を救ってきた役割は正しく評価すべきである。)
*白馬岳の村営頂上宿舎は、山頂により近い白馬山荘に比較して空いている場合が多い。理由は良くわからないが、おそらく、部屋からの眺望が悪いなどのためと思われる。

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